【論文詳説】肩甲背神経の絞扼症候群

この論文は、超音波ガイド下での肩甲背神経ブロックを用いた頸部痛の診断と治療に関する症例報告です。38歳の女性患者が、右側の肩甲間部に痛みを訴え、運動範囲の制限と右側の頸部前面の圧痛を伴っていました。神経学的検査は正常で、MRI検査でも異常は見つかりませんでした。理学療法や経口鎮痛薬による治療も効果がありませんでした。

中斜角筋の筋筋膜性疼痛

医師は、患者の症状から中斜角筋の筋筋膜性疼痛が原因と推測し、超音波ガイド下で肩甲背神経ブロックを実施しました。超音波ガイド下で中斜角筋内の肩甲背神経を特定し、局所麻酔薬を単回注射しました。その結果、患者は施術後すぐに約80%の疼痛軽減を報告しました。1週間後のフォローアップでは、痛みが再発しましたが、施術前と比較して症状は軽微でした。

この症例報告では、超音波ガイド下での肩甲背神経ブロックが、中斜角筋に起因する頸部痛の診断と治療に有効である可能性が示唆されています。肩甲背神経は、C5神経根から起始し、前斜角筋と中斜角筋の間の隙間に位置し、中斜角筋を貫通して後方に走行する運動神経です。この技術は、頸部痛の原因を特定する上で役立つ可能性があります。ただし、この研究は単一の症例報告であるため、より大規模な研究が必要とされています。

中斜角筋の筋筋膜性疼痛は、首や肩の痛み、こわばり、その他の症状を引き起こす可能性のある、比較的よくみられる状態です。中斜角筋は、首の側面にある3つの斜角筋の1つで、首の動きや呼吸に関与しています。様々な要因が中斜角筋の筋筋膜性疼痛の発症に関与すると考えられていますが、そのメカニズムは完全には解明されていません。

原因とリスクファクター:

  • 姿勢不良: 長時間同じ姿勢を維持したり、猫背や前かがみの姿勢をとったりすることで、中斜角筋に過剰な負担がかかり、筋緊張やトリガーポイント(圧痛点)の形成につながります。これは、デスクワークやスマートフォンの使用が多い現代社会において、特に問題となっています。
  • 外傷: 首への直接的な外傷(むち打ちなど)は、中斜角筋の損傷や炎症を引き起こし、疼痛につながる可能性があります。
  • 反復的な動作: 首や肩を反復的に使う作業(例えば、タイピング、細かい作業など)は、中斜角筋に過剰な負荷をかけ、筋筋膜性疼痛を誘発する可能性があります。
  • ストレス: ストレスは筋肉の緊張を高め、中斜角筋のトリガーポイントを形成しやすくします。
  • その他の要因: 睡眠不足、脱水症状、栄養不足なども、筋筋膜性疼痛の発症リスクを高める可能性があります。
徒手療法大学

カイロプラクティック治療は、頸部痛を軽減するための効果的な手段であり、患者のライフスタイルや健康全般を向上させる力があり…

症状:

中斜角筋の筋筋膜性疼痛の主な症状は、首や肩の痛み、こわばりです。痛みは、首の側面や肩甲骨の上部に放散することがあります。また、以下の症状も伴う場合があります。

  • 頭痛
  • めまい
  • 吐き気
  • 上肢のしびれや痛み(頸肋症候群との鑑別が必要)
  • 呼吸困難(稀)
  • 運動制限

診断:

中斜角筋の筋筋膜性疼痛の診断は、主に問診と身体診察に基づいて行われます。医師は、患者の症状や病歴を聞き取り、首や肩の筋肉を触診して、トリガーポイントの存在を確認します。画像診断(X線、MRIなど)は、他の病気を除外するために必要となる場合もありますが、必ずしも必須ではありません。

肩甲背神経の絞扼

論文では、肩甲背神経の絞扼を説明する3つの仮説(神経の長期的な伸張、筋筋膜性疼痛症候群、肩甲骨の翼状変形)についても言及しています。

論文では、肩甲背神経の絞扼を説明する3つの仮説が提示されていますが、それぞれの仮説について詳細な解説はされていません。あくまで、肩甲背神経ブロックが有効であった症例報告の中で、その神経の絞扼メカニズムに関する可能性が示唆されているという程度です。

論文で言及されている3つの仮説を簡単にまとめると以下の通りです。

神経の長期的な伸張:

肩甲背神経を繰り返し伸張させる動作が、神経を包む結合組織(nervus nervorum)に損傷を与え、血管からの漏出を引き起こし、炎症反応を誘発するという仮説です。これは、反復的な動作や姿勢の悪さが原因として考えられます。

筋筋膜性疼痛症候群:

中斜角筋や菱形筋などの筋肉のトリガーポイントが、肩甲背神経を圧迫することで絞扼が起こるという仮説です。筋肉の緊張や硬結が神経を直接圧迫したり、間接的に血管を圧迫して血流を悪くしたりすることで、神経の機能障害を引き起こすと考えられています。

翼状肩甲骨症:

肩甲骨が内側に突出する翼状変形(翼状肩甲骨症)によって、肩甲背神経が牽引され、絞扼が起こるという仮説です。翼状肩甲骨症は、長胸神経麻痺などによって起こることが知られています。

論文ではどの仮説が最も有力なのか、あるいは複数の仮説が組み合わさって肩甲背神経絞扼が起こっているのかといった結論は示されていません。 あくまで、肩甲背神経ブロックという治療が有効であったという症例報告に基づいて、肩甲背神経絞扼の病態解明に繋がる可能性のある仮説が挙げられているという位置づけです。 更なる研究が必要であるという結論が暗に示されています。

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