札幌校にて、5月7日(木)に実技実習が行われました。本記事は札幌校で行われた実習内容についてのレポートです。
この日の実習は手関節がテーマでした。手関節は複雑な関節構造を持つため、診断においては丁寧な触診と問診が不可欠であり、局所だけでなく上肢全体を評価する必要があります。
TFCC(三角線維軟骨複合体)損傷
手関節の症状の一つにTFCC(三角線維軟骨複合体)損傷があります。TFCCは、尺骨茎状突起周辺に位置し、関節円板や靭帯、腱鞘から構成され、手関節の安定性を保ち、手首への衝撃を吸収する役割を担っています。
Ulnar variance
TFCC損傷の原因としては、遠位橈尺関節の脱臼や、尺骨の長さが正常範囲から逸脱するUlnar varianceが挙げられます。
Ulnar varianceには、尺骨が橈骨と同程度の長さの場合、尺骨が短い場合、長い場合の3種類があります。
TFCC損傷の症状
TFCC損傷の症状としては、前腕の回内・回外運動時や手首を小指側に曲げた際に痛みが生じたり、捻髪音などがあります。
鑑別診断には、変形を伴う遠位橈尺関節の亜脱臼、尺骨手根骨インピンジメント、豆状骨手根骨関節炎、尺側手根伸筋腱の亜脱臼や腱炎などがあります。
TFCCはカイロプラクティックの適応症状ですが、変性が進行しているケースもあり、その場合改善が難しくなります。
尺側手根伸筋腱炎
次に尺側手根伸筋腱炎についての解説と治療法について勉強しました。尺側手根伸筋は、上腕骨外側上顆と尺骨後面から起始し、第5中手骨底背面に停止する筋肉です。
尺側手根屈筋腱炎は屈筋腱の中で最も損傷を受けやすい腱炎であり、ゴルフやテニスなどのスポーツで発生しやすいとされています。
豆状骨遠位部に限局的な痛みや腫脹が生じるのが、尺側手根屈筋腱炎の症状の特徴です。
鑑別診断としては、豆状骨三角骨関節の関節炎や豆状骨・三角骨の骨折が挙げられます。
ド・ケルバン腱鞘炎
ド・ケルバン病(腱鞘炎)は、いわゆる手首の腱鞘炎です。腱鞘炎の中でもっとも好発するのがド・ケルバン腱鞘炎です。
ド・ケルバン腱鞘炎の発生メカニズム
ド・ケルバン病は狭窄性腱鞘炎の一種であり、中年女性に多く見られます。
親指の使いすぎが原因となることが多く、右利きのゴルファーではインパクト時に左手首が小指側に曲がることで発症しやすいとされています。
長母指外転筋と短母指伸筋が、橈骨茎状突起と伸筋支帯で形成されるトンネル内で炎症を起こすことが原因です。
ド・ケルバン腱鞘炎の症状
ド・ケルバン腱鞘炎の症状は、手首の親指側(コンパートメント1周辺)に局所的な腫れや捻髪音が生じ、橈骨茎状突起に強い圧痛を伴います。
ド・ケルバン腱鞘炎の検査法
短母指伸筋・長母指外転筋への抵抗運動やフィンケルシュタインテストが、代表的な検査法になります。
特にフィンケルシュタインテストは、検査の精度が高く、この検査法で陽性の場合、高い確率でド・ケルバン症腱鞘炎であることが多いです。
ド・ケルバン腱鞘炎の鑑別診断
ド・ケルバン腱鞘炎の鑑別診断としては、舟状骨骨折、橈骨手根屈筋腱炎、第1手根中手関節の関節炎、インターセクション症候群などが挙げられます。
特にインターセクション症候群は、ド・ケルバン腱鞘炎と痛みが自覚される部分が近く誤診されることが多いので、その診断には注意が必要です。
インターセクション症候群では、長母指外転筋と短母指伸筋が長橈側手根伸筋・短橈側手根伸筋と交差する部位(手首の甲側にあるリスター結節の近位4〜8cmの範囲)で炎症が起こります。
ド・ケルバン腱鞘炎の治療法
治療は、腕橈骨筋と第1コンパートメントへのアプローチが中心となります。
また、手関節(橈骨舟状骨間関節)の運動障害、さらに橈骨神経の絞扼もド・ケルバン腱鞘炎の原因となるので、ド・ケルバン腱鞘炎の症状改善のためには、それぞれの構造へのアプローチは必須です。
実習では、それらの各テクニックについても念入りに指導が行われました。
手根管症候群
手根管症候群は、手首にある手根管内で正中神経が圧迫されることで起こります。
正中神経は横手根靭帯と手根骨に囲まれており、横手根靭帯は橈側で舟状骨と大菱形骨、尺側では豆状骨と有鉤骨に付着しています。
手根管症候群の原因と発生メカニズム
手根管症候群の発生メカニズムは、手首への直接的な外傷や手関節の屈曲・伸展の反復動作です。
手首の過度な反復動作により、手根管を走行している屈筋腱に腫脹や変性が生じ、それが手根管の狭窄を引き起こします。
また、手根管には正中神経も走行しているため、手根管の狭窄により正中神経の圧迫が起こり、手掌の知覚異常(痛みや知覚鈍麻)が現れます。
また、妊娠時のホルモンバランスの崩れによる水分貯留(腫脹)が、手根管症候群の発生要因となることもあります。
手根管症候群の検査法
検査としては、手関節を屈曲させた状態での神経伝導検査、パーカッションテスト、ファレンテスト、知覚検査などが行われます。
いずれの検査法も手根管内の正中神経を刺激することで、自覚症状の増悪の有無をみています。
手根管症候群の治療法
手根管症候群の治療法には、手掌を上にして屈筋支帯にテンションをかけたり、手関節を中立位に保ちながら屈筋支帯に牽引力を加えたりする方法があります。
また、浅指屈筋や深指屈筋のリリース、舟状骨のマニピュレーションも手根管症候群の症状改善に効果的な治療法になります。
実技ではそれらについて時間をかけて勉強していきました。
ギヨン管症候群
ギヨン管症候群は、手首の小指側にあるギヨン管で尺骨神経と尺骨動脈が圧迫されることで生じます。ギヨン管は、豆状骨と有鉤骨鈎の外側に位置し、手掌腱膜で覆われています。
ギヨン管症候群の原因
ギヨン管症候群の原因には、手首への外傷、小指球への持続的な圧迫、ガングリオン、脂肪腫、有鉤骨骨折、尺骨動脈の血栓などがあります。
小指球への持続的圧迫の具体例には、テニスのラケットや野球のバットを長時間持つことによって起こったりします。
また、有鈎骨鈎の骨折の後、ギヨン管周辺に組織の変性が生じ、それが尺骨神経を刺激してしまう場合もあります。
有鈎骨鈎の骨折は、ゴルフなどで比較的認められる症状です。
ギヨン管症候群の症状
ギヨン管症候群では、ギヨン管における尺骨神経の絞扼が起こっています。従って、その症状は尺骨神経の絞扼に由来することが多くなります。
具体的には、小指から環指にかけての知覚異常が現れます。また、手掌や前腕の痛み、鷲手変形(クローハンド)なども見られます。
ギヨン管症候群の治療法
基本的にはギヨン管周辺の軟部組織のリリースが、ギヨン管症候群の症状改善に有効です。従って、小指球筋の筋膜リリースを中心に実技を勉強していきました。
以上、今月実施された札幌校での実技実習のレポートとなります。
- 実技実習のテーマ: 手関節
- TFCC(三角線維軟骨複合体)損傷:
- 役割: 手関節の安定性維持、衝撃吸収
- 原因: 遠位橈尺関節の脱臼、Ulnar variance(尺骨の長さの異常)
- 症状: 回内・回外運動時の痛み、捻髪音
- 鑑別診断: 亜脱臼、インピンジメント、腱炎など
- 尺側手根伸筋腱炎:
- 原因: スポーツなどによる過使用
- 症状: 豆状骨遠位部の痛み、腫脹
- 鑑別診断: 関節炎、骨折
- ド・ケルバン腱鞘炎:
- 発生: 親指の過使用、中年女性に多い
- 症状: 親指側の捻髪音、圧痛
- 検査: フィンケルシュタインテスト
- 鑑別診断: 骨折、腱炎
- 手根管症候群:
- 原因: 手首の反復動作、妊娠による水分貯留
- 症状: 手掌の痛み、知覚異常
- 検査: 神経伝導検査、ファレンテスト
- 治療: 筋のリリース、マニピュレーション
- ギヨン管症候群:
- 原因: 外傷、ガングリオン、骨折
- 症状: 小指・環指の知覚異常、痛み
- 治療: 軟部組織のリリース
各症状や治療法についても時間をかけて実技を実施。